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「箱庭」 と 「はこにわ」

それは何かの呪いのようにたてこんでいた仕事がようやく一段落したときのことだった。仕事場の書棚の本を並べ直していていると、擦り切れかけていた気分がいつのまにかすっきりとリセットされていることに気がついた。まるで旅先で迎えた晴れた朝のような気分だった。

おそらく本を並べることには、頭の中で蓄積してしまった不必要な情報や、断片化してしまった必要な情報を整理して、本来あるべき形に回復してくれるような治癒的な効果があるのだろう。それまでは河合隼雄さんの本で読んだ「箱庭療法」がどのようなものなのかを実感することができなかったが、そのとき自分に起こったことは、おそらく箱庭療法を受けた患者の心の中に起こっていたのと同じようなことだったのではなかったかと思う。そういう意味では、自分が持っている/あるいはまだ持っていない本を、このバーチャルな書棚に並べたり、更新したりする作業も、個人的な箱庭療法のようなものなのかもしれない。

そして、そのとき本を並べつつもうひとつ気づいたことは、書棚をつくるという行為はこどもにとってはさらに大きな意味を持つことになるかもしれない、という小さな可能性だった。大人のための書棚づくりが「箱庭」であるとすると、こちらは「はこにわ」である。

たとえば、公共のライブラリーに、こどもたちのために書棚をもつ個別のブースが用意されているとする。こどもたちは館内にあるすべての書籍や映像や音楽や雑誌の中から好きなものを選択して、自分のブースの書棚に並べることができる。ライブラリーとは「世界」の縮図のようなものだ。ふだんは触れることができない広さと深さをもつ多様なコンテンツのなかから、こどもたちは自分自身の純粋な興味にしたがって、さまざまなアイテムに触れ、生まれて初めての書棚をつくりはじめる。やがて書棚はそれらのアイテムを糸口にして、ときには広がり、ときには飛躍し、随時シャッフルされながら、徐々にそれぞれに固有の「幸福な」イメージを形づくっていくだろう。そこには、例えばサッカー選手やパティシエのように大人たちがオートマティックに想定する選択肢だけではない、ほんとうに進むべき道へのヒントが投影されている。そのようにして、こどもたちは自分自身にとっての幸福な未来を発見する手がかりを見つけることができるだろうし、大人たちは、決して押しつけではない方法で彼らを導いたり、背中を押して勇気づけたりすることができるだろう。

このサイトを「whitebookshelf」と名づけたのは、自分の書棚に白っぽい背表紙の本が目立つということと、そこが自分を漂白してくれる場所だというイメージを重ね合わせたからだ。自分にとって、「whitebookshelf」はすでに「箱庭」であって、「はこにわ」ではない。けれどもその時点での自分を確認することができる「参照点」であることに違いはない。そしてそれはこれからもささやかに更新される。

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